ため池


 

スリランカでは,僕はため池の研究をしていました.

水というものは人間にとって不可欠な要素で,エジプトや黄河文明の発展も,
インダス文明の衰退も,水と深く関わっています.

昔のスリランカの王族にとっても水の管理は最重要事項でした.
そのため各地にいくつもの大きなため池を作りました.

大きなため池は象の力を借りて作られました.
その地域に住む人々はまた,大きなため池の上流や下流に
数え切れない小さなため池を作りました.

実際,乾季と雨季のあるスリランカでは河川だけに水源をたよるのは不十分でした.
こうしてスリランカにはため池を中心とする水の文明ができあがったのです.

その精神は現在にまで受け継がれ,スリランカの国会議事堂は
大きなため池の真ん中に建てられています.
この国ではため池は国家繁栄を願う希望の象徴でもあるのです.

僕はスリランカにいる間,日ごろはコロンボ周辺の都会で生活しながら
今は廃れた古都,アヌラーダプラ,ダンブッラ,シギリヤあたりにある
ため池にも頻繁に通いました.

普通の観光客は田舎のため池なんかにはまず訪れません.
でも,ため池に注目して,頻繁に訪れていると,
時々ため池はハッとするほど美しい表情を見せてくれます.

あるため池に,早朝から日没までずーっといたことがあります.
スリランカの人々は朝がすごく早いので,早朝からぼつぼつとため池に人が集まってきます.

洗濯する人,身体を洗う人,泳ぎに来る人...
日没まで人の集まりは途絶えません.
もちろん鳥や牛たちも集まってきます.

でもそれだけじゃないんです.

ため池は日本でいうところの井戸端会議のような,
みんなが情報を持ち寄って交換する場所でもあるんです.
水辺には人や動物を呼び寄せる力があります.

こういう地方で,水道や電気も使わず農業をしたり家畜を飼ったりして一生を過ごす人達.

文明と情報にまみれた僕たちには想像もできない生活ですが,
きっと僕たちの失ってしまった何かを持っているんじゃないかと思います.